本文記事2009年

 



編集部の許諾を得て4/21号「生活産業新聞」(家庭日用品新聞社)より転載します。

自治体が専売制を助長?
「民業圧迫」切実な声も

 

 「販売チャンネルを限定する指定ごみ袋の制度は、自治体の独占・専売につながり、民業の圧迫にほかならない。誰にとってもメリットは生まれない」と訴えるのは、あるごみ袋メーカーの経営者。全国の自治体では、指定ごみ袋導入の動きが広まっているが、一方で自由競争を阻害しているとして、製袋メーカーなど業界関係者らの間では、切実な声も聞かれる。

 かつて黒色・有色が隆盛だった時代は去り、現在のごみ袋は半透明・透明が主流になった。黒色はエコマーク商品でもあり、樹脂の端材を再生利用しやすいリサイクルの優等生であったものの、市町村の分別強化やごみ処理の有料化などを背景に、1990年代から透明化の流れが加速。自治体が独自の印刷や規格を設けた指定ごみ袋も同時に普及していった。

 一般家庭ごみの処理は通常、市町村の税金で賄(まかな)われており、近年は分別や資源化、施設の整備・更新などで費用が増加する傾向にある。ごみ処理を有料化し、財源を補てんしたい自治体にとって指定袋の制度は“都合のよい”仕組みといえる。

自治体の8割が有料化

 環境省の統計によると、全国約1800市町村のうち、8割が家庭ごみの有料化を実施している。指定ごみ袋の制度はこれら有料化に伴うケースが多いが、同省では「一般廃棄物の処理は自治体固有の事務で、各市町村の裁量による」と説明しており、「制度の詳細については把握していない」のが実情だ。

 一般的に、指定ごみ袋を導入しているのは人口10万人以下の自治体が多いといわれる。政令指定都市では福岡市や京都市などが有名で、札幌市も今夏から有料指定ごみ袋を採用する予定だ。納入業者については、中小都市では随意契約で、大都市では競争入札により選定する例が目立つ。

 自治体では指定袋の導入について、@費用負担による排出者責任の明確化A有料化で財源を補いやすいB分別収集の徹底Cごみの減量化D回収作業の安全確保E住民にとっても統一規格が分かりやすい、といった点を主張する例が多く見られる。

 しかし、業界内外を取材するなかで、以下のような論点も浮上している。

 @については、ごみの排出量に応じて袋を消費するため、従量制による費用負担の公平性は理解できても、既存の税収以外に袋の原価に上乗せされる手数料(自治体の収入)が存在し、その根拠や内訳などの詳細な情報が市民に周知されにくく、不透明な部分が多い。袋の価格は概して1gあたり1円が全国的な相場とされるが、大雑把な部分もあり、市町村が市民への説明責任を果たしているのか問われる。

 Aの点では、もともと税金でごみを処理している行政において、有料化を強制する行為は「税の二重取り」に等しい。

 BCDEについては、特定の指定袋でなくても、透明や半透明だけを指定すれば対応できる点も多い。横浜市の例では、レジ袋での排出も認めており、半透明だけの決まりを設けて分別収集を進めている。

今の時代になぜ「専売」

 論点を整理すると、家庭ごみの処理は自治体の固有事務のため、確かに独自の裁量権がある。しかし、ここで焦点となるのは、特定の指定袋(納入業者)を入札や随意契約で決める専売行為の是非だろう。

 自治体の委任を受けたサプライヤーは必然的に1社に集約され、販売チャンネルは独占状態となる。ただ、納入業者においても、受注のために不合理な価格設定や年度毎の受注リスクを伴い、自治体の細かな仕様に基づき多品種少量の在庫管理なども強いられる。規格を定めた市町村にとっては管理しやすいが、サプライヤーには負担ばかりが重くのしかかる構造だ。

 ごみ袋メーカーの有志で構成する「指定ごみ袋を考える会」(武田一弘会長)では「有料化は時代の流れ。否定する訳ではない。しかし、指定袋の制度については疑問を感じる。今の時代になぜ自治体の専売制が通用するのか…」と不信感を拭(ぬぐ)えない。

 また、市民にとっても、1消費者として本来、1円でも安いごみ袋を、より便利なごみ袋を選択・購入する権利があるはずだが、専売制の下では袋の選択の自由がない。生活者に最も身近な存在であるべき家庭消費財のごみ袋において、このような制度が容認されるのか…という議論も。

 入札などの条件として、国産や特殊な仕様に限定するなど、明らかに一部の企業に有利なケースもあり、自由競争を阻害する可能性も否定できない。また、生産・保管・流通までを含めた入札の条件もあることから、対応できるサプライヤーが限られるという側面も見逃せない。

 最近では、有料化・指定ごみ袋制度をめぐっては、静岡県西伊豆町、神奈川県藤沢市、山口県下関市などで住民や事業者が自治体を相手取り、訴訟などの法的対抗策や住民運動に打って出る例も出てきた。自治体への不信感を表明したもので、世論を動かす契機となるか、今後の動向が注目されている。

長野市の新たな挑戦

 一方、既存の指定ごみ袋制度とは異なる新たな手法に取り組む自治体もある。ごみ袋の販売価格とごみ処理の手数料を明確に分けることで、有料化を実現しながら極力、納入業者にも市民にも柔軟性を確保できるようなシステムを目指したものだ。

 長野県の飯田市では、入札で1社独占とするのではなく、サプライヤーの承認方式を採用し、複数の事業者が登録して市の指定袋を販売。有料化の部分にあたる手数料と袋の販売価格を示す2種類のバーコードをパッケージに表示させることで、費用の内訳を明確化している。市が定めた手数料は一律だが、袋の売価は業者間での意向や競争原理が働き、市民にとっても選択の幅が増える。

 今年10月には人口38万人規模の長野市でも飯田市と同様の新制度を開始する。参加メーカーは10社以上、卸業者も10社以上、販売先は500店舗以上の予定で開かれた市場が期待できる。これまでに実施してきたチケット制による指定袋制度から移行するもので、長野市の規模による都市部での導入は珍しく、今後の行方が注視される。

 市の担当者は「過去10年間で指定袋の安定供給にめどがついた。数量や販路を把握できたので、新制度に移行しても問題ないと判断した。ごみ袋自体の価格は自由競争なので、『市民=消費者』にとってもメリットがあるはず」と話す。

 90年代から一種のブームと化した指定袋制度だが、忘れてならないのは、制度自体「完成形」ではないということだ。全国的な普及から、ようやく10年以上が経過し、手数料の徴収方法や指定袋のシステムなど、ごみ行政のあり方は、まだ試行錯誤の段階といっても過言ではない。

 市民の税金を行使する自治体には、より効果的に実務を行う義務があり、真しに新しい仕組みや事例を学ぼうとする姿勢が求められる。生活者にとっては身近な消費財である、ごみ袋。大小200社を超える事業者が携わっているともいわれる業界にとっても、軽視できない課題だ。



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