ダイオキシン抑制効果?

 

それでも「ダイオキシン抑制」と称する袋を使いますか?

☆発行/指定ごみ袋を考える会事務局  このたび指定ごみ袋を考える会では、化学方面の専門家数名に集まっていただき、「ダイオキシン抑制」と称するごみ袋の技術的および社会的意味の疑わしさを解析し、まとめていただきました。もし内容に疑義のもたれる場合には、当会のほうで責任をもって対応する用意があります。(アップロード:1999年8月25日)


金属化合物類を添加したポリ袋は
ダイオキシン発生を抑制するどころか
逆効果であることの検証

 酸化鉄、水酸化アルミニウム(酸化アルミ)、人工ゼオライト(アルミノ珪酸塩)などの金属化合物をポリエチレン製ごみ袋に添加すると「ダイオキシン発生を抑制できる」というまやかしの百害あって一利なしをここに検証する。既に公表されている文献を参照しながら、出来るだけ推測を加えない方法による。


【検証1】 どれだけ添加しなければならないか?

1-a. 反応50%なら、すべて酸化鉄で出来た袋

 生ごみ中の塩素(ダイオキシン構造の1成分)を金属化合物で反応させるためにはポリ袋にどれだけ添加しなければならないか? 酸化鉄を例に検証してみる。
 最も一般的な45リットルのポリエチレン製ごみ袋について考えてみよう。一枚の重さは平均26グラムである。そこに入っている可燃ごみは、京都市の調査によると平均3.7キログラムである。(家庭ごみ細組成調査報告書、京都市、平成5年3月)
 可燃ごみ中に含まれる塩素量は、過去13年間で1.0%〜0.4%の幅の間で推移しているとの報告がある(ごみ処理施設整備の計画・設計要領、全国都市清掃会議 36頁、平成11年8月)。今、少なく見積もって0.4%を採用すると、可燃ごみ3.7キログラム中に14.8グラムの塩素が含まれることになる。これを塩酸(HCl)のモル数に換算すると0.416モルとなる。 

  14.8÷35.5=0.416モル

 酸化鉄と塩素の化学反応は、特開平08-082411に記載されている反応式を参照すると、

  FeOx→FeOy
  (ただし x>y、x=1〜1.5であるから、次式成立にはy=1)
  2HCl+FeO→FeCl2+H2O

 上式に従ってごみ袋一枚中のごみに含まれる塩酸を反応除去するための必要な酸化鉄量は、もし燃焼中に(ありえない話だが)理想的に100%反応するとして15グラムとなる。

  0.416÷2x72(酸化鉄の分子量)=15グラム

 26グラムのポリエチレン製ごみ袋一枚に15グラムの酸化鉄を添加した場合、比重換算をすると、1枚ではポリエチレンが20グラム、酸化鉄15グラムからなる約半量が酸化鉄のポリ袋を作らなければならない。
 もし仮に反応が50%とすると、袋のすべてが酸化鉄で出来た袋でなければならない。

1-b. 実際の反応率はほとんどゼロに近い

 実際の製品における添加量は、報道において1%との説明がある。とすると、45リットルのポリ袋にわずか0.26グラム相当の鉄の微粒子が混在しているにすぎない。0.26グラムの鉄化合物微粒子と反応する塩素のモル数は、

  0.26×2÷72(酸化鉄の分子量)=0.00722モル

  0.00722×35.5(塩素の分子量)÷14.8(塩素重量)=0.0173

 仮に反応率(酸化鉄と塩素との反応)が100%として、酸化鉄と反応することによりもたらされる塩素の除去量は1.7%である。次に、この塩素が除去されたことで期待できるダイオキシンの除去率は、仮に反応率(塩素とダイオキシンとの反応)が100%だとして1.7%である。これが理論上期待できる最大値であるといえよう
 ただし、実際には前者の反応率(酸化鉄と塩素との反応)および後者の反応率が(塩素とダイオキシンとの反応)が100%ということは考えらず、むしろほとんどゼロに近いと考えられる。よってダイオキシン発生抑制効果は誤差の域を出ない程度と考えられる。

 多量に練り込んでもなんら効果が無いことを示したが、一方、わずかでも入れた方が入れないより良いとの論法もある。次の検証2では、添加すると吸着、反応するどころか、金属化合物の粒子表面で逆にダイオキシンが発生する場を与える、あるいは反応を高める触媒機能がある疑いを紹介したい。


【検証2】ダイオキシンの生成原因である可能性がある

 ダイオキシン生成の化学反応時に、焼却灰中の酸化鉄類、酸化アルミ、酸化シリカなどの表面上で生成の場を与えるあるいは触媒となっている可能性があるとの報告がある。

2-a. ごみ焼却灰に多量に含まれている  

 まず、ごみ焼却灰には酸化シリカ、カルシウム化合物類、酸化アルミ(水酸化アルミの無水和物)、酸化鉄類の順に、これらが多量に含まれていることは多数の報告があり、周知の通りである。

  •   '98廃棄物処理記念展記念セミナー講演;
      ダイオキシン類発生抑制技術の最先端 66頁
  •   雑誌PPM 10月号13頁(1996)

 これらの飛灰や処理灰をどうするかが大問題になっているのに、ダイオキシンを吸着するなどと称してわざわざ添加した商品が出まわることの不可解さについて、一体どういう説明がつけられるのだろうか。

2-b. 酸化鉄がダイオキシンの触媒になっている  

 酸化鉄類がダイオキシンの触媒になっているの報告がある。以下の文献参照。

  •   雑誌PPM 5月号26頁(1992)
  •   雑誌PPM 5月号43頁(1992)
  •   日本エネルギー学会誌 76号931頁(1997)
  •   第4回廃棄物学会研究発表会講演論文集 643頁(1993)

2-c. 酸化アルミ、酸化シリカについても報告がある  

 酸化アルミ、酸化シリカなどの粒子表面がダイオキシン生成の場を与えている、あるいは触媒となっている報告がある。以下の文献参照。

  •   雑誌PPM 5月号特集 都市ごみ問題、ダイオキシンを探る(1992)
  •   R.Addink,B.V.Bavel,R.Visser,H.Wever,P.Slot and K.Olie;
      Chemosphere, Vol.20, Nos.10-12, pp1929-1934(1990)
  •   Froese KL,Hutzinger O;Environmenntal Science &
      Tecnology, Vol.30, No.3,pp998-1008(1996) 

2-d. 専門家にとっては基礎知識のはず  

 研究のために実験室でダイオキシン類を合成する場合には、銅粉、鉄あるいはアルミニウム塩および遊離ヨウ素を触媒として、反応速度と反応収率を上げるのに用いられているのである。

  •   参考文献;森田昌敏氏、篠原亮太氏、貴戸東氏 ダイ
      オキシン入門 財団法人 日本環境衛生センター発行 
      P.12に記載のPohland A.E. and G.C.Yang; J.Agric.Food
      Chem.,20,1093(1972) Wertheim E., Text of Organic
      Chemistry ; 1939

 かかる諸件に関わっている技術者諸賢は、ダイオキシンの合成を経験しなかった人でなくとも、炭化水素化合物を塩素化するのに塩化金属化合物を用いることは基礎として知っているはずである。

2-e. わざわざ加える必要はない  

 ここでダイオキシンが生成するための条件をまとめると、以下5点であると言われている。

  (1) 塩素(他のハロゲンも?)
  (2) 前駆体となる炭化水素化合物
  (3) 酸素(燃焼および構成成分)
  (4) 金属化合物(反応の場を与える金属化合物あるいは触媒)
  (5) 200〜400度の温度

 人工ゼオライト(酸化シリカや酸化アルミを成分とする)や酸化アルミ(水酸化アルミの無水物)にダイオキシンが吸着されるとの説を唱える人がいるが、仮にそうであっても、それをそのまま土中に埋めることは、土壌にばらまかれたダイオキシンがそう簡単に分解しない困りものであることを強く認識して欲しい。吸着させた後をどう処理するのか、もし知恵がないなら上記の条件(1)〜(5)の一つでも減らす正攻法が大切である。わざわざ(4)をさらに加える必要はない。

2-f. 小細工的なごまかしに頼ったビジネスはやめよう  

 酸化鉄や水酸化アルミニウムや人工ゼオライトはコストのかかった貴重な工業、産業素材である。ごみ袋に自社の製品をわずか練り込んで、焼却時のダイオキシン発生を抑制出来るなどとPRするには、人類の存亡にかかわるかも知れないダイオキシン問題および環境問題への企業取り組み姿勢を逆に疑われると思う。
 実際問題として、素人はごまかせても、専門家を納得させられない説明のなんと多いことか。一部の抗菌グッズもその効用が疑われて衰退したが、もし本文が正しいことが立証されれば、ダイオキシンを抑制すると称した金属化合物添加グッズは、抗菌ものとは事の重大性が異なり、将来、ダイオキシンを生成させた原因の一人として、その責任を問われるかも知れない。


 

【検証3】 確かなデータが見当たらない

 不思議なことに、ダイオキシンを抑制できるという金属類を練り混んだごみ袋にごみを入れてダイオキシン濃度を直接測定したデータが見当たらないことである。特に公的機関のデータが待ち望まれる。

3-a. 酸化鉄を添加した場合  

 酸化鉄を添加した場合、ごみ中の塩素の反応除去と活性酸化鉄という化合物(おそらくゲーマイトと云う酸化鉄水和物のこと)により、酸素を活性化させて、より低温で燃やせる(酸化反応)という新(?)技術紹介がある。
 DTA分析の結果(下記文献の図4)を見るかぎり、よほど再現性に優れた高性能のDTA熱分析装置を使用したと考えられる。

  省エネルギー実施事例発表、中国地区大会事例集 
  21頁;平成7年9月広島

 塩素除去については、炭酸カルシウム併用が効果があるとのことであるが、実際の焼却ではすでにカルシウム化合物で塩素ガスを吸収させているのであり、カルシウム化合物散布による効果が大きいのである。
 また、同報告書には、連続流動式燃焼炉でのダイオキシン発生量検出を実施した試験データが提出されている。実験データは事実であるとして、残念なのは、最も重要な燃焼温度(特に添加物の方が低温燃焼のはず)が明記されていないことである。  

3-b. 人工ゼオライトを添加した場合  

 人工ゼオライトの元原料は、石炭灰や焼却灰であり、工業的に使用できるように技術を駆使し純度を高め再利用したり$あるいは耐火断熱材などに有効な用途が多くある。 それなのに、ダイオキシン類25ナノグラムを0.5グラムの焼却ゼオライト灰に99.9%吸着されたという実験が記載されたブリーフレットがある。灰1グラム当たり0.000000005グラムの精度の吸着試験である。それを裏付ける脱着による確認データを見たい。ゼオライト表面上の5オングストローム程度のボイドに、あの大きい分子量からなるダイオキシン分子が吸着されるという印象を与えている。せめて分子模型を提示し、ボイドに吸着された絵があれば説得力があるかも知れない。
 K-OPフィルム(塩化ビニリデンコートOPP)と人工ゼオライトを配合したポリフィルム(ゼオライト配合比が不明)、600度と800度で塩酸ガスやトリクロロエチレンやSOxや塩酸の吸着度をゼオライト未添加物と比較してその効果を提示している。とにかく傍証なのである。
 これらを根拠にして、1990年8月8日の包装タイムスや1998年5月の日経産業新聞の記事「ダイオキシン吸着、ポリ袋用フィルム」と変身するのである。繰り返すが、実際にダイオキシン抑制と称するごみ袋にごみを入れてダイオキシン除去効果を試験し、確認してからマーケットに出すべきである。
 ゼオライトにはダイオキシン除去効果がないという報告もあるので参照。

  •   第4回廃棄物学会研究発表会講演論文集 643頁(1993)

3-c. 水酸化アルミを添加した場合  

 水酸化アルミはアルミ製品の貴重な中間原料である。その原料ボーキサイトは日本は輸入に頼る物質であり、貴重な資源を本来の目的に供せずに、燃やそうという発想は、どこから出たのであろうか。社会問題であるダイオキシン抑制に役立てるとする考えは間違っているかどうか判らないが、もっと別の発想が出ても良いのではないだろうか。
 メカニズムは人工ゼオライトと同様、酸化アルミの粒子表面での吸着であるという。酸化アルミ単体を溶剤などキャリア物質に乗せて、ダイオキシンの吸着実験をしたところ、効果が見られたという。
 この実験室データを根拠にして、1999年6月4日の日本工業新聞記事、「ダイオキシンや塩素ガス吸着○○○を開発」すると変身するのである。さらに、焼却灰を埋め立て処理した場合には他の焼却灰から出る重金属類も吸着する、雨水や地下水の汚染も防げると、ご丁寧にもさらにエスカレートするのである。
 しかし、ポリごみ袋に30%練り込んで、焼却時にダイオキシンが低減するかどうかは、上記の実験とは異なり、反応相の点から考えると別の話である。理由は、先ず燃焼時に発生したポリ袋の有機物成分のススで、折角の多孔ボイドが塞がれているかも知れない。しかもダイオキシンが生成すると言われる温度200〜400度で、そこに存在するダイオキシンは固体状(2,3,7,8TCDDの融点は305度)と考えられるので、酸化アルミ粒子に出会う確率は非常に低いであろう。広い空間中における固相/固相吸着反応と考えられるからである。

3-d. 吸着を証明するデータがない

 酸化鉄は塩素(塩酸)との反応を基本にしており、ゼオライトや水酸化アルミは吸着をメカニズムとしている。
 この吸着という議論は、提案者からなんの物理化学的データが出ていない。すなわちゼオライトにしろ、酸化アルミでも、これらの物質上をダイオキシンあるいは塩素を通過させたら、出口では減少したというデータを出しているだけで、データとしては科学的に有効とは言えないのである。
 吸着とは簡単にいうと、ある状態では掴んで離さない(少なくともフアンデルワールス力が作用している)のが吸着で、簡単に離すのはその物質に乗っかっているか、たまたまくっついているかである。これを確認するには$吸着したものから$逆に引き離す「脱着」試験が必要である。想定した状態での引き剥がせないダイオキシン量や塩素量の確認の脱着試験があってはじめて「吸着している」という物理化学的な意味のある科学データといえるはずである。
 しかも、吸着の状態環境は燃焼の高温度から土中の低温度までの変化するすべての状態を想定した吸脱着試験をしなければならないので、その効果を検証するには慎重にならざるを得ないはずである。

3-e. カルシウム・マグネシウム炭酸塩を添加した場合  

 最近、カルシウム・マグネシウム炭酸塩(ドロマイト)が塩酸と反応するので、これを練り込んでダイオキシン抑制と称するフィルムが出た。とにかく塩素と反応しそうな化合物を練り込めばダイオキシンカットという「なんでもあり」である。ドロマイトレンガが800度で塩酸ガスと反応するのかどうか教えて欲しいものである。

3-f. さいごに  

 こと人類にかかわるダイオキシンの問題である。小手先では防げないことはもう周知の通りである。慎重さを欠くと、自己商品のイメージを逆に損なう事になる。たとえば、1999年7月13日の流通サービス新聞記事にある「環境派宣言シリーズ第一弾はダイオキシンを抑えるゴミ袋、コアビジネスに」と言われると、同社の他の製品まで疑いたくなってくるのである。特に、かかる記事が出るたびに、それに関わった専門家である担当技術者各位の良心に突き刺さるものがあるのでないだろうか。気掛かりである。 
 



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